アフリカとの出会い50

 
 サイザルバッグ作りの名人   

  アフリカンコネクション 竹田悦子

 前回は沢山の子供を育てる、未婚のママ・オザヤについてお話しました。その中で、ママ・オザヤはビジネスをしていると書きました。オザヤは中央ケニアに属し、キクユ族が多く住む地域です。キクユ族は、昔から農耕民族で、自分たちの土地で、とうもろこし、豆類、芋類などの主食や、スクマと呼ばれる野菜、トマト、玉ねぎ、バナナなどの果物を育てています。ママ・オザヤもそんな農作業の合間にビジネスをしています。そのビジネスとは?

 キクユ族の女性は、手先が器用で家庭で使ういろいろなものを手作りします。衣服やカバン、ソファやイスのカバー、テーブルクロスなど縫い物や編み物が得意です。お店に行くと、生地や糸、毛糸が豊富に売られています。ママ・オザヤはその中でも「キヨンド」と呼ばれるカバンを作る名人です。
 このカバンは、アフリカ地域で自生するサイザル麻を使って作られます。サイザル麻は、いたるところに生えていて、それを引き抜いてきて、皮をめくると繊維質のものが出てきます。詳しくは、リュウゼツラン科リュウゼツラン属の繊維植物だそうですが、大きなものは人の身長くらいにもなります。その繊維で、ロープを作ったり、カバンを作ったりするのです。

*サイザルアサ(フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」→

 キクユ族のキヨンドは、このサイザル麻と毛糸を上手に組み合わせて手で編みこんで作られます。サイザル麻はそもそもロープに使われる丈夫な素材。重いものを沢山入れても大丈夫な耐久性の優れたカバンが出来上がります。農耕民族の彼らは、このカバンに沢山の畑から採った野菜を入れて運びます。ジャガイモを山盛りにいれてれも破れません。また普段使うカバンとしてもデザインがおしゃれなものも沢山あります。

 ママ・オザヤが作る「キヨンド」はデザインがとても美しく、また無限にある毛糸の色の組み合わせも圧巻です。デザインの勉強したわけでもない彼女ですが、その仕上がりにキクユ女性たちは感動します。私も初めて彼女の村を訪ねて、泊めてもらってその作品を目にしたその日からママ・オザヤの手仕事の大ファンです。早速、「私にも作って」と頼むと、まずは「自分でも作ってみなさい」と毛糸とサイザル麻をくれました。そして手のひらサイズの小さなサイザルバッグを一緒に作ってくれました。私は毛糸を2色使うのがやっとで複雑な模様も入れることが出来ませんでしたが、とても根気の要る作業です。しかし、うまく出来なくてもママ・オザヤは笑顔でゆっくり教えてくれます。

 「急がなくてもいいからね。焦っても得することなんてないからね」

 「使う時に、楽しい気分になるように気持ちを込めてね」

 「糸だけだと何も出来ないけど、こうして織ってあげるとね、荷物が運べる。すごいと思わない?」

 「模様って面白いと思わない?何十年作っていても、同じ模様にならないの」

 「心が乱れると、模様も乱れてくるのよね。美しい気持ちで取り組んでみて」

 ママ・オザヤのキヨンドは、類まれな技術と持つ人のことを考える優しい気持で出来ているんだと感心しました。一日に一つ必ず作れるわけでもない、大きな市場に売り出しているわけでもない、宣伝しているわけでもない彼女のキヨンド。農作業に励んだり、お出かけしたりするその村の女性のために作って生計を立て、それで得たお金で家族や村の女性の子供たちを育てたり、時には学費も工面したりさえします。そんな彼女を私はとても素晴らしいものと感じますし、自分が出来ることで、社会に貢献し、社会もそんな彼女をすばらしいと思い、尊敬しています。

 ケニアは経済的にはまだまだ発展途上国かもしれませんが、それでも人々はすべての人を受け入れる心の広さがあるように感じます。人はそれぞれ違っていて当然なのです。自分と異なる生き方をする人を好奇の目や偏見の目で見たりせず、自分の基準で評価しません。私がケニアにいる時にいつも感じていたあの居心地のよさを思い出して見ますと、「外国人」であることを意識せず、「奥さんやお母さん」でもなく、あるがままの私自身でいられる安心感がありました。

 ママ・オザヤが今の日本で生活したら、誇り高い彼女自身でいられるでしょうか?お土産にもらったキヨンドを眺めながら、そんなことを考えたりするのです。
 


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